織絵屋のブログ
10/06: 菱屋善兵衛 明治、大正の帯 復刻物語
織絵屋の松山です。今回は明治大正時代の帯を復元した京都西陣の老舗機屋「菱屋善兵衛」について述べます。
創業220年を超える西陣・菱屋善兵衛は、20年ほど前に、創業200年記念の帯を製作する企画が持ち上がりました。
何か参考になる資料はないかと古くからある蔵を整理中に、明治、大正時代に製造していた帯地や図案、小裂などが見つかりました。当時は、まだ無名だった上村松園や菊池契月、木島桜谷などそうそうたる画家たちが描いた図案もあった。
これらの帯地を復刻することに決まったのだが、復刻は簡単ではなかった。明治大正時代の帯は、糸の品質、糸の込み具合、ジャガードの細かさなど「これほどまでにすごいとは!」と職人たちは驚いたという。
しかし、彼らはあきらめなかった。その帯地の柔らかな風合い、手触り感、また軽さを現代に蘇らせるために研究に研究を重ねた…一番の問題は絹糸だった。現代の絹糸では復刻することは不可能だったのだ。
一時は不可能とあきらめそうになった復刻を可能にしたのが、あの世界的ブランド・エルメスが使用する「ブラタク糸」という絹糸だった。
その最高の絹糸を緯糸に使い、通常の倍の密度で織り上げました。職人たちが図案、素材、配色のすべてを吟味し、3年の歳月を要して完成。
10月18日から20日の「44歳の誕生祭」でお披露目します。
09/05: 新感覚の伊勢型小紋を生み出した男
織絵屋の松山です。伊勢型小紋(および江戸小紋)の染工程を簡単に説明します。
➊板に貼った白生地の上から、文様が彫られた伊勢型紙を使って糊を置いていきます(白生地にくっ付いた糊部分は染まりません)。❷その上から色糊(染料を混ぜた糊)で染めていきます。❸色が定着するように蒸します。➍最後に水で洗い流すと、最初に置いた糊部分が白い文様として浮かび上がってくるのです。
京都に「染処 古今」という伊勢型小紋の染工房の現社長・安江氏は、中卒でこの染工房に入り、修行。あまりの大変さに、実家に逃げ帰ったこともあったそうですが、母親や伊勢型紙・錐彫りの人間国宝「六谷梅軒」の励ましで一人前の染職人になれたそうです。
安江氏は、何百年と続く伝統的な伊勢型小紋に新しい工夫を取り入れたいと考えていて、前社長に他の染工房での修行を申し出たそうです。
安江氏が新たに修行した染は草木染でした。草木染の修行を終え、「染処 古今」に戻った安江氏は、伝統的な技法で染めた伊勢型小紋に草木染料を重ね染めするという新感覚の伊勢型小紋を完成させたのです。
とてつもない技術が必要な伊勢型紙の彫り職人と染め職人によって完成した小紋に、さらに、草木染を施すことで、着る人の顔が一層映えるのです。9月4日~6日まで、安江氏が織絵屋で文化講演してくれます。
07/31: 江戸小紋と伊勢型小紋の関係
織絵屋の松山です。今回は江戸小紋と伊勢型小紋の関係について述べます。
戸小紋の名称は、比較的新しくて、昭和30年に人間国宝に認定された小宮康助氏が他の小紋と区別するために命名し、その後、広く使われるようになりました。
そもそも、小紋とは小さな紋様を彫った型紙を使って、連続的に染めた単色の着物のことです。
その型紙は古くより伊勢の白子地方で作られ、伊勢型紙と呼ばれています。
伊勢型紙は、諸説ありますが、ある和尚が1200年ほど昔、伊勢の不断桜の落ち葉に空いた虫食いの穴を見て、「型紙」を思い付いたという伝説があります。
伊勢型紙は江戸時代に入ると、武士の裃を染める型紙として大きく発展し、型売り業者が各地にまで型紙を売り歩き、全国に広まりました。
やがて、江戸中期以降になると、庶民の間でも流行し、幕府の奢侈禁止令の御触れと共に、遠目には無地に見える江戸小紋が男女とも広く着られるようになりました。
伊勢型紙で染められた単色の小紋が伊勢型小紋ですので、江戸時代の裃から発展した単色の江戸小紋も伊勢型小紋の一部と言えます。
07/09: 京都西陣に新風を吹き込む『帯のあらた』
織絵屋の松山です。今回は人気の西陣帯メーカー『帯のあらた」について述べます。
4月に、京都の西陣帯『帯のあらた』を訪ねました。
『帯のあらた』は、今、話題の西陣帯メーカーです。
昭和60年(1985年)創業の新しい小機屋です。創業者の今村俊氏は伝統的な分業制である意匠屋(図案を作る専門業)に頼らず、自ら図案を考案し、少数精鋭の熟練職人と共に帯を制作し始めました。
さらに、平成14年以降、大学で建築デザインを学び、大手ゼネコンで働いていた変わり種の二代目・今村忠昭氏が、伝統的なデザインだけでなく、現代的な感覚を取り入れたスタィリッシュなデザインでセンスの高い帯を創り続けています。
デザインだけでなく、高品質な絹糸と独自の染色技術を用いて、質感や色あいにもこだわっています。
また、締めやすさにもこだわっています。帯の裏の省ける浮き糸は、ほぼ省き、軽さと薄さを追求し、締めたときのガサガサとした感覚をなくし、体に沿ったより良い締め心地を追求しています。
初めて「あらたの帯」を観た人は、その新鮮さに驚きます。すでに帯を数十本も持っている方でも、「こんな帯、見たことない!」と、購入する方が絶えません。
忠昭氏は、西陣帯の火を消さないように、他の帯メーカーの休業状態の織機をレンタルし、新たな挑戦をしています。12日~14日、当店に来てくれます。
05/29: 蒸し暑い夏に快適な浴衣、街着の素材
織絵屋の松山です。今回は今の季節に楽しみたい浴衣や街着に関する話です。
これからの季節は、浴衣や夏の街着を着物で楽しめる蛍狩りや花火大会、夏祭りなどのイベントがあちこちで開催されます。
昔に比べ、暑さが厳しくなり、夜でも冷房が必要になった岩手なので、少しでも快適になる素材の浴衣や街着を選びたくなりますね。
一般的な綿100%のモノは、木綿は保温力があるので、さすがに暑いです。熱中症に気を付けて下さい。
綿100%でも、綿絽(絽目になっている生地)や紅梅織(細い糸と太い糸を使って肌への接着が少ない生地)、また絞りはおすすめです。
近年は、綿と麻の混紡の生地のモノが増えてきました。麻はほとんど保温力がないので、綿100%のモノよりずっと快適です。
麻100%の小千谷縮や近江縮は、高温多湿な日本の夏には最も快適な素材です。
また、縮みは肌と生地の間を空気が取り抜けるため、天然のクーラーと言えるほどです。
とはいえ、夏は少し動くだけで汗が出て汚れます。汗汚れはたんぱく質を含んでいるのでドライ洗いでは取れません。自宅で水を使って洗うとすっきりキレイになります。アイロンはかけずに、しっかり畳んで座布団なので重しをかけてシワを伸ばして下さい。